税制解説

即時償却と一括償却・特別償却の違い — 当社が使った制度と使わない制度

「即時償却」「一括償却」「特別償却」は、どれも減価償却まわりで耳にする言葉ですが、根拠となる制度も金額の基準も別物です。会計ソフトの固定資産の登録画面や決算対策商品の「即時償却できます」という説明では、3つが区別されないまま使われることがあります。この記事では、設備投資や決算対策を検討している中小企業・マイクロ法人向けに、3つの言葉が指す制度を条文の根拠つきで整理し、当社(株式会社87Technology)が使った制度・使わなかった制度を、その理由まで公開します。

一括償却資産とは 20万円未満を3年で均等償却する制度

取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として3年間で均等に償却できます(法人税法施行令第133条の2)。取得価額の合計を3で割った金額を、その期を含む3年間の各期で損金に算入する仕組みで、法人の規模や申告方法を問わず全法人が使えます。

注意したいのは「一括」という語感です。一度に経費化できそうに見えますが、実際は3年に分割する制度で、その期に全額は落とせません。一方で、一括償却資産として処理した資産は、金額にかかわらず償却資産税の申告対象外になる利点があります。

10万円未満や30万円未満(令和8年4月1日以後の取得は40万円未満)の特例も含めた金額区分ごとの使い分けは、条文の根拠つきで別の記事に整理しています(関連記事: 少額減価償却資産の特例 完全ガイド)。

特別償却とは 通常の減価償却に上乗せする制度

特別償却は、普通償却限度額(通常の減価償却で認められる金額)に加えて、取得価額の一定割合を上乗せして償却できる制度の総称です。1つの制度の名前ではなく、租税特別措置法の複数の優遇制度がこの仕組みを持ちます。上乗せの割合は制度によって異なり、たとえば中小企業投資促進税制(租税特別措置法第42条の6)は30%です。

特別償却は、その期の償却額を通常より大きくできるだけで、資産の使用期間全体で損金にできる総額が増えるわけではありません。前倒しで多く償却した分、後の期の償却額は小さくなります。つまり特別償却は、税金そのものを減らす「節税」ではなく、課税のタイミングを先に送る「課税繰延」です。同じ優遇でも、税額控除は納税額そのものが減るため、効果の性格が異なります。

上乗せ割合が100%になるケースを「即時償却」と呼ぶ

特別償却の上乗せ割合が大きくなり、初年度に取得価額のほぼ全額を損金にできる状態になったものが、実務で「即時償却」と呼ばれています。代表例は中小企業経営強化税制(租税特別措置法第42条の12の4)です。対象設備について「取得価額から普通償却限度額を差し引いた金額」を特別償却できるため、初年度に取得価額の全額を償却しきります。取得価額の7%(特定の中小企業者等は10%)の税額控除との選択制です(国税庁タックスアンサーNo.5434)。

ただし、対象設備には機械装置160万円以上、工具・器具備品30万円以上(令和8年4月1日以後の取得は40万円以上)、ソフトウェア70万円以上といった最低取得価額があり、原則として経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等でなければ適用できません。少額資産のように買ったその期にそのまま損金にできる制度ではなく、計画の作成と認定という事前準備を伴います。対象設備の類型や適用期限は、稿を改めて扱う予定です。

「即時償却」という言葉が2つの意味で使われている

「即時償却」は、税法の条文に出てくる言葉ではありません。中小企業経営強化税制を説明する国税庁タックスアンサーNo.5434でも、使われているのは一貫して「特別償却」で、「即時償却」という語は出てきません。取得価額の全額をその期に落とせる状態を分かりやすく言い表すために、実務や会計ソフトの現場で使われている通称です。

この通称は、2つの異なる制度を指して使われています。中小企業経営強化税制のような100%の特別償却を「即時償却」と呼ぶ一方で、青色申告の中小企業者等が30万円未満(令和8年4月1日以後は40万円未満)の資産をその期に全額損金算入できる特例(租税特別措置法第67条の5)も「即時償却」と表現されます。「即時償却できます」と言われたら、それがどちらの制度を指しているのかを確かめるのが安全です。

4制度の比較表

減価償却の特例としてよく挙がる制度と、「即時償却」「一括償却」という通称がどれに当たるかを、次の表に整理しました。

項目 少額減価償却資産(10万円未満) 一括償却資産(20万円未満) 中小企業者等の特例(30万→40万円未満) 特別償却・即時償却(経営強化税制等)
根拠条文 施行令133条 施行令133条の2 措法67条の5 措法42条の12の4 ほか
対象法人 全法人 全法人 青色申告の中小企業者等 青色申告の中小企業者等
事前手続き 不要 不要 不要 経営力向上計画の認定
損金算入の時期 その期に全額 3年均等償却 その期に全額 その期に全額(通常償却に上乗せ)
年間上限 なし なし 合計300万円 なし
償却資産税 対象外 対象外 対象 対象

※中小企業者等の特例の取得価額の上限は、令和8年3月31日以前の取得が30万円未満、令和8年4月1日以後の取得が40万円未満です(令和8年度税制改正)。

同じその期に全額を損金にできる制度でも、対象法人・事前手続き・償却資産税の扱いは異なります。一括償却資産だけは3年均等償却で、名称の語感とは逆に、その期の全額損金にはなりません。

当社の場合 使った制度と使わなかった制度

当社(株式会社87Technology)はソフトウェア開発と不動産賃貸を営むマイクロ法人で、この4制度のうち2つを使い、2つは使っていません。

使ったのは、少額減価償却資産(10万円未満)と中小企業者等の特例(30万円未満)です。前者では、2023年に暗号資産のマイニングマシンを1台税込99,000円で10台、合計99万円分取得し、1台ずつその期に全額損金算入しました(記録は関連記事: 【実録】マイニングマシン節税 — 99万円分を3年運用しきった全記録)。後者では、30万円未満の特例でiPhoneを損金算入しました。

一方、一括償却資産(20万円未満)と特別償却・即時償却(中小企業経営強化税制など)は使っていません。一括償却資産は、10万円以上20万円未満の資産を決算対策として処理する機会がこれまでなかったためです。

特別償却・即時償却を使っていないのは、制度を避けたからではなく、ソフトウェア開発と不動産賃貸という当社の事業では、適用の前提となる規模の設備投資が現状生じていないためです。当社が決算対策で取得してきたのは1台10万円未満のマイニングマシンやiPhoneなどで、中小企業経営強化税制が対象とする価格帯(機械装置160万円以上など)には届きません。

どの制度を検討すべきか 判断の分かれ目

どの制度に載せられるかは、主に取得価額と決算までの残り時間で決まります。10万円未満から40万円未満までの少額資産の制度は、取得して事業に使えばその期(一括償却資産なら3年)で損金にできるため、決算直前でも間に合います。一方、特別償却・即時償却は対象設備が高額なうえ、中小企業経営強化税制なら経営力向上計画の認定にも時間がかかるため、駆け込みには向きません。なお決算対策商品がうたう「即時償却で節税」も、多くは税額そのものが減る節税ではなく、負担を先送りする課税繰延です。

まとめ

「即時償却」「一括償却」「特別償却」は似た響きですが、指す制度も効き方も別物です。

当社は、少額減価償却資産(10万円未満)と中小企業者等の特例(30万円未満)を使い、一括償却資産と特別償却・即時償却は使っていません。少額資産の制度で実際に処理した記録は関連記事(マイニングマシン節税の全記録少額減価償却資産の特例ガイド)に、特別償却・即時償却を使う決算対策商品の比較は別の記事にまとめています。