決算対策の基本

マイクロ法人の経費はどこまで認められるか 家事按分の実例つき

法人の経費をどこまで認めてよいかという問いに、金額の基準はありません。判断軸は支出が事業と関連しているかどうかで、この点は従業員が何十人もいる会社でも一人社長のマイクロ法人でも変わりません。ただし一人社長の会社では、会社の財布と個人の財布が近く、支出の性格が混ざりやすくなります。

この記事は、経費の線引きに迷っているマイクロ法人・一人社長に向けて、法人の経費算入の判断基準と、家事按分の考え方が法人でどう扱われるかを整理したものです。あわせて、当社(株式会社87Technology)が按分・計上している費目と、あえてしていない費目の両方を書きます。

マイクロ法人の経費はどこまで認められるか 判断基準は事業関連性

法人の損金を定めているのは法人税法22条3項です。同項は損金の額に算入すべき金額を、別段の定めがあるものを除き、その事業年度の収益に係る売上原価等の額、販売費・一般管理費その他の費用の額、資本等取引以外の取引に係る損失の額としています。

この条文に「事業に関連するかどうか」という言葉は出てきません。実務でよく使われる「事業関連性」は条文の文言ではなく、22条3項2号の「費用」に当たるかを判定するために定着した整理用語と理解しておくのが正確です。

そのうえで結論はこうなります。事業のために行われた支出は損金になり、役員個人の生活のための支出は、法人の口座から出ていても損金になりません。金額の大小は基準ではなく、会社の規模で条文が変わるわけでもありません。一人社長の会社で難しいのは、支出を決める人も承認する人も同じであるため、目的を第三者に説明する材料が自動的には残らない点です。

一人社長が経費にできるものとできないものの境界線

事業のために支出したかどうかで判断する

同じ費目でも中身によって結論が変わります。業務に関する専門書は損金になりますが、趣味で読む小説は同じ「書籍」でも役員個人の支出です。勘定科目が可否を決めるのではなく、その支出が事業のために行われたかどうかが決めます。

境界が曖昧になりやすいのは、事業にも私生活にも使えるものです。スマートフォン、自家用にもなる車、自宅の一室、パソコン、書籍。支出した時点では白黒がつかず、実際の使い方で性格が決まります。だからこそ、使い方を説明できる状態にしておくこと自体が経費算入の実体になります。

私的な支出は役員への給与とみなされる

法人と個人事業主で決定的に違うのは、否認されたときに何が起きるかです。

個人事業主の場合、家事上の経費に関連する経費のうち業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できないものは必要経費に算入しないと、所得税法45条と同法施行令96条が定めています。否認されれば必要経費が減り、その分の所得税と住民税が増えます。影響はそこで完結します。

法人には、この家事関連費に直接対応する条文がありません。代わりに働くのが法人税法34条(役員給与の損金不算入)の枠組みです。同条4項は役員に対する給与に「債務の免除による利益その他の経済的な利益」を含むと定めており、国税庁のタックスアンサーNo.5202では、役員等が個人として負担すべき費用を法人が負担した場合のその費用の額が、経済的利益の例として挙げられています。

役員の私的な支出を法人が負担すると、経費ではなく役員給与として扱われることになります。役員給与は定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも当たらなければ損金に算入できず、期中に不定期に発生した肩代わりは定期同額とは言いにくい性格のものです。結果として、会社側は損金にできず、役員個人は給与所得として課税されるという二重の負担になりえます。個人事業主なら必要経費が消えるだけで完結するところが、法人では会社と個人の両方に及ぶ。この違いが、個人事業主向けの家事按分の解説を法人にそのまま持ち込めない理由です。

なお、継続的に供与される経済的利益のうち、供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に含まれるとされています(タックスアンサーNo.5211)。この場合は会社側の損金算入が認められうる一方、役員個人の給与課税と社会保険料の算定基礎は増えるため、対策としての意味は薄くなります。

家事按分とは何か 法人でも按分の考え方は使えるのか

個人事業主の家事按分と法人の按分の違い

家事按分は、事業と家事の両方にまたがる支出のうち、事業に使った部分だけを経費にする処理です。根拠は所得税法45条と所得税法施行令96条で、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できる場合に、その部分を必要経費に算入できます。あくまで個人の所得計算についての規定で、法人税法に家事関連費という概念は置かれていません。

検索すると「法人に家事按分はない」という説明と「法人でも面積按分すればよい」という説明の両方が出てきますが、この食い違いは、それぞれの言葉が指すものの違いから生じています。法人でも、支払った費用のうち事業に関連しない部分を損金から除く処理は必要で、これを慣用的に按分と呼んでいるだけです。ただし根拠となる条文が違えば帰結も違い、法人で按分割合が過大な場合は、超過部分が先に見た役員給与の問題に接続します。

加えて、法人が按分できるのは法人が支出した費用に限られます。役員個人が支払っている費用を法人が何割か計上することはできません。自宅関連の費用では、この前提が効いてきます。

賃貸物件を法人契約する場合は役員社宅の枠組みになる

自宅の家賃を会社の損金にしたい場合、賃貸物件であれば按分ではなく役員社宅の制度を使うのが本筋です。法人が貸主と賃貸借契約を結び、役員から国税庁の基準で計算した賃貸料相当額を徴収すると、会社が負担した家賃との差額が損金になります(関連記事: 役員社宅で手取りを増やす仕組み)。

賃貸物件を法人名義で契約するなら役員社宅の話、持ち家で法人との契約がないなら家事按分の話。この切り分けが出発点で、後者では按分の対象になる法人側の支出がそもそも存在しないことがあります。

法人の経費で家事按分の割合はどう決めるか

面積按分と使用時間按分という2つの考え方

按分割合の決め方に法定の基準はありません。実務で使われているのは、合理的だと説明できる次のような尺度です。

解説記事には「電気代は50パーセント」といった目安が並んでいることがありますが、これらは法令上の基準ではなく、多くは個人事業主向けの解説で使われている相場観です。自社の実態と無関係な数字を借りてくると、その数字の根拠を説明できなくなります。

参考になる公表資料として、国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」があります。従業員の通信費の業務使用部分について、基本使用料等に「在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数」を掛け、さらに2分の1を掛けるという算式が示されています。ただしこれは企業が従業員の在宅勤務費用を負担する場面の取扱いで、役員が自宅で使う通信費の按分にそのまま当てはまるかどうかは、この資料からは読み取れません。数字を流用するのではなく、考え方の参考として扱うのが妥当だと当社は考えています。

割合の根拠を残す方法

割合そのものより、その割合をどう出したかの記録のほうが重要です。面積按分なら業務スペースを図示した間取り図と計算過程、時間や日数で按分するなら稼働日が分かる業務記録が、根拠の実体になります。

そのうえで、決めた基準を期をまたいで継続して使うことが説明力を支えます。毎期都合よく割合が動く状態は、実態から計算しているのではなく税額から逆算していると受け取られかねません。実態が変われば割合が変わっても構いませんが、その場合は変えた理由も残しておくことになります。

税務調査で否認されやすい経費のグレーゾーン

私的支出の混入と証憑不備

否認の入口になりやすいのは、支出そのものより記録の側です。

いずれも、事業のための支出であることを説明する材料が足りないという一点に集約されます。

家事按分の根拠を説明できないケース

按分という処理そのものが問題視されるというより、割合の根拠を示せないことが問題になります。他の記事にあった数字をそのまま使った、期ごとに割合が変わる、業務に使っているスペースを特定できない。こうした状態では、按分の合理性を主張する足場がありません。

出張関連費用は旅費規程が前提になる

出張の日当や旅費は、旅費規程を整備したうえで規程どおりに運用していることが前提になります。規程がないまま日当を支給すると、非課税どころか給与とみなされる可能性があります。規程に盛り込む項目と金額の考え方は別記事にまとめています(関連記事: 旅費規程と出張日当の作り方)。

当社の場合 計上している費目とあえてしていない費目

当社(株式会社87Technology)はソフトウェア開発を本業とし、あわせて不動産賃貸業を営むマイクロ法人です。金額と割合の記載は控えますが、判断の中身は書きます。

通信費と書籍は計上している

通信費は、私用と業務用でSIMの契約自体を分けています。業務用の回線は開発業務そのものがその上で成立しているため、割合を按分するまでもなく全額を事業関連の費用として説明できます。按分の根拠を毎期説明する手間よりも、契約を分けて線引きを最初から明確にする方法を選びました。

書籍と情報収集の費用は経費として計上しています。開発技術、税務、不動産に関する書籍や有料の情報サービスが対象で、事業との関係を説明できるものに限り、趣味の読書は入れていません。費目単位ではなく、1冊ごと、1サービスごとの判断です。

自宅の家賃と光熱費 交際費はあえてしていない

自宅の家賃と光熱費について、当社は家事按分をしていません。理由は制度が使えないからではなく、按分の対象になる支出が法人側に存在しないためです。代表の自宅は持ち家で、法人と個人のあいだに賃貸借契約がありません。法人が家賃を支払っていない以上、按分して損金に振り分ける原資となる支出がそもそも発生していません。

同じ理由で、当社は役員社宅も導入していません(関連記事: 役員社宅で手取りを増やす仕組み)。持ち家という前提が、社宅制度と家賃按分の両方をふさいでいます。法人と代表個人のあいだで賃貸借契約を結んで地代家賃を支払う選択肢はありますが、受け取る個人側に不動産所得が発生し、契約書の作成と適正な賃料の設定、個人の確定申告まで付いてきます。会社と個人の両方を動かす意思決定になるため、当社は現時点で採用していません。

交際費もほとんど計上していません。制度上の枠がないわけではなく、令和6年度税制改正により、令和6年4月1日以後に支出する飲食費については1人当たり10,000円以下のものが交際費等の範囲から除外されています。中小法人には年800万円の定額控除限度額もあります(令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象の時限措置です)。それでも使っていないのは、開発と不動産賃貸という事業モデル上、会食を伴う商談が発生する場面が少ないからです。枠があるから使うのではなく、事業に必要だから使う。この順番で決めると、経費の説明は後から楽になります。

まとめ

法人の経費の範囲は、金額ではなく事業との関連性で決まります。要点を整理します。

期末にまとめて見直す場面もあります。決算月に入ってから打てる手と、そこで計上漏れを拾う作業は別記事にまとめています(関連記事: 期末1ヶ月でもできる決算対策チェックリスト)。