決算対策の基本

旅費規程と出張日当の作り方 — 非課税で受け取れて会社の損金になる仕組み

決算対策の多くは、税金を消すのではなく支払時期を先送りにする課税繰延です。そのなかで出張日当は数少ない例外で、将来に益金として戻ってくることのない、税負担そのものが減る恒久型の対策にあたります。

ただし、日当をこの効果のまま受け取るには前提があります。旅費規程という仕組みを先に作っておくことです。規程を整えないまま「日当」と称してお金を渡すと、非課税どころか給与とみなされ、逆に負担が増えることさえあります。

この記事は、出張のある中小企業・マイクロ法人の経営者に向けて、出張日当がなぜ三重に効くのか、旅費規程に何を盛り込むのか、金額をどのあたりに設定すれば否認されにくいのかを、条文と通達の根拠つきで整理したものです。

出張日当は「受け取る側・会社側・消費税」の三方向に効く

出張日当が恒久型の対策として強いのは、効き方が3つの税目にまたがるからです。

1つ目は、受け取る側の所得税です。役員や従業員が受け取る出張日当は、所得税法第9条第1項第4号により、その旅行について通常必要であると認められる範囲で非課税とされます。同じ金額を役員報酬や給与として渡せば所得税と住民税、社会保険料の対象になりますが、日当なら本人の手取りにそのまま残ります。

2つ目は、会社側の損金です。支給した日当は旅費交通費として損金に算入され、その分だけ会社の利益、ひいては法人税等の負担が下がります。

3つ目は消費税です。消費税法基本通達11-2-1により、国内出張の旅費・宿泊費・日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分は課税仕入れとして扱えます。日当は給与と違い、消費税の計算上も仕入税額控除の対象になります。ただし海外出張のために支給する日当等は、原則として課税仕入れには該当しません。国内出張と海外出張で消費税の扱いが分かれる点は押さえておく必要があります。

同じ「お金を役員・従業員に渡す」行為でも、役員報酬や給与では所得税・社会保険料がかかり消費税も引けません。日当は、受け取る側で非課税、会社側で損金、消費税で課税仕入れという三方向に効きます。この差が、日当を恒久型の対策たらしめている核心です。

なぜ「規程」がなければ非課税にならないのか

ここで前提に戻ります。日当が非課税になるのは、金額が「通常必要と認められる範囲」に収まっている場合に限られます。この範囲をどう判定するかを定めているのが所得税基本通達9-3です。

同通達は、非課税となる旅費を「その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」と定めた上で、その範囲内かどうかの判定にあたり次の2点を勘案するとしています。

この2点は、いずれも「基準」の存在を前提にしています。役職間でバランスの取れた基準、同業他社と比べて相当な水準──これらを示せるかどうかが分かれ目で、そのための文書が旅費規程です。

規程がないまま、そのつど社長の裁量で金額を決めて支給すると、金額の根拠を客観的に説明できません。この場合、日当と称していても実質は給与の上乗せと判断され、給与として所得税・社会保険料の対象になるおそれがあります。旅費規程は節税テクニックの飾りではなく、非課税という扱いを受けるための土台そのものです。

旅費規程に盛り込む項目

旅費規程に盛り込むべき項目は、大枠が決まっています。

区分の考え方として、宿泊費や交通費は実際にかかった費用を精算する性質のものですが、日当は「出張に伴う細かな諸雑費(食事代の増加分、通信費など)を個別精算せず定額で渡す」ものです。この定額性こそが日当の実務上の利点であり、非課税で渡せる根拠にもなります。

手続き面も軽視できません。旅費規程は社内の重要な規程なので、株式会社であれば取締役会(取締役会を設置していない会社では取締役の決定や株主総会)で正式に制定し、制定日を記録に残しておきます。「いつ、どの機関で定めたか」が曖昧だと、税務調査の際に規程の実在性そのものを問われかねません。

金額の相場観と、外し方が危ない理由

規程を作るうえで最も迷うのが日当の金額です。判断のよりどころになるのが、通達の言う「同業種・同規模と比べて相当な金額」という基準で、その相場を把握するための代表的なデータが産労総合研究所の国内・海外出張旅費に関する調査です。人事労務分野で定番の調査として、多くの実務書や税理士が水準の参照元にしています。

同調査をはじめとする民間調査によると、国内出張の日帰り日当は概ね2,000〜3,000円台、役員はやや高い水準というレンジが報告されています(産労総合研究所の出張旅費調査等)。なお、役職別の詳細数値は調査レポート本体でのみ公開されており、無料公開範囲では確認できません。

この相場観を、そのまま自社に当てはめる必要はありません。重要なのは、決めた金額がこのレンジから大きく上振れしていないことです。相場が日帰りで2,000〜3,000円台という水準にあるなかで、一人社長が自分に日当5万円を設定すれば、「通常必要と認められる範囲」を明らかに超えていると判断されやすくなります。超過分は日当ではなく給与とみなされ、非課税が崩れます。

日当は「規程さえ作れば金額は自由」ではありません。規程は非課税の入口にすぎず、金額が相場から相当に外れていれば、規程があっても否認の対象になります。

実務で足をすくわれやすい落とし穴

制度としては強力ですが、運用でつまずく箇所がいくつかあります。

1つ目は、役員だけを極端に高く設定することです。通達が「役員および使用人の全てを通じて適正なバランス」を求めている以上、役員の日当だけが従業員の何倍もある構成は、バランスを欠くとみなされやすくなります。役職に応じた差は自然ですが、常識的な範囲にとどめる必要があります。

2つ目は、出張の実態や記録がないことです。日当は「実際に出張したこと」が前提です。規程と金額表だけ整えても、出張報告書や訪問先・目的の記録がなければ、その出張自体が実在したのかを説明できません。日当を出した回数分、出張の事実を裏づける記録が残っている状態が必要です。

3つ目は、一人社長・マイクロ法人だからと記録を省くことです。従業員がいない会社でも、旅費規程と出張報告の記録は省略できません。むしろ役員一人しかいない会社では、支給の恣意性を疑われやすいため、規程と記録による裏づけの重要性はより高くなります。「自分一人だから」は、記録を残さない理由にはなりません。

当社の場合

当社(株式会社87Technology)は、旅費規程を整備した上で出張日当を運用しています。具体的な金額の記載は控えます。

意識しているのは、この仕組みを期末間際に慌てて作らなかった点です。旅費規程は、制定してすぐ効果が最大化するものではなく、実際に出張し、報告書を残し、規程どおりに精算する運用の積み重ねがあって初めて、税務上も説明できる打ち手になります。決算月の直前に規程だけ用意しても、その期の出張実態が伴っていなければ意味を持ちません。

当社は事前にこの仕組みを立ち上げておいたため、毎期、出張の実態に応じて安定して使える対策になっています。出張日当が「恒久型」と呼べるのは、制度が恒久的だからというより、こうした運用を継続できる状態を先に作っているからだと考えています。

まとめ

出張日当は、受け取る側で非課税、会社側で損金、消費税で課税仕入れという三方向に効く、数少ない恒久型の決算対策です。ただし、その効果を得るための前提が旅費規程の整備にあります。

出張日当は「作れば使える」対策ですが、規程と記録の運用を先に立ち上げておくことが効果の前提です。決算対策全体をいつ何から着手するかは、決算月からの逆算で整理するのが実務的です(関連記事: 決算対策はいつまでに何をやるか — 決算月からの逆算カレンダー)。また、出張日当のような恒久型の対策と、支払いを先送りにするだけの課税繰延型の違いを先に押さえておくと、対策の優先順位を判断しやすくなります(関連記事: 「節税」と「課税繰延」の違い — 決算対策商品に騙されないための基礎)。