決算対策の基本

「節税」と「課税繰延」の違い — 決算対策商品に騙されないための基礎

決算対策として売られている商品の大半は、税金が消えるものではありません。今期の税負担が軽くなる代わりに、その分の支払いが将来へ移動しているだけの「課税繰延」です。この区別がつかないまま商品を契約すると、数年後に戻ってきた利益へまとめて課税され、想定と違った、という事態になりかねません。

この記事は、決算前に何らかの決算対策商品を勧められている中小企業・マイクロ法人の経営者に向けて、「節税」と「課税繰延」の違い、繰延型のデメリット、そして繰延を有効に使うための出口設計の考え方を、制度の根拠つきで整理したものです。

課税繰延は税額が消えるのではなく、将来へ移動する

まず押さえておきたいのが、世間で「節税商品」と呼ばれているものの多くは、正確には課税繰延だという点です。

課税繰延とは、今期に損金(経費)を計上して利益を圧縮し、その分の税金を先送りにする仕組みです。ただし先送りした損金は、将来のどこかで益金(収益)として戻ってきます。トータルで見れば、支払う税額は原則として変わりません。タイミングが動いているだけです。

代表例が経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。掛金は月額5,000円から20万円まで、総額800万円まで積み立てられ、租税特別措置法にもとづき支払時に全額を損金算入できます。ここだけ見れば強力な決算対策です。しかし解約したときに受け取る解約手当金は、その事業年度の益金に算入されます。掛金を払った期に減った利益が、解約した期に戻ってくる構造です。なお、令和6年10月1日以後に解約した場合は、その後再加入しても解約の日から2年間は掛金を損金算入できません。解約と再加入を繰り返して損金を作り続ける使い方は、既に封じられています。

法人向けの生命保険による決算対策も同じ性質を持ちます。保険料の一部を損金にできても、途中で解約して受け取る解約返戻金は益金になります。支払時に減らした税負担は、解約時に戻ってきます。

つまり課税繰延は、「今期の損金」を「将来の益金」と交換しているに過ぎません。お金の流れとしては手元の資金が共済や保険という形に変わり、税金の支払いだけが後ろにずれます。これを「節税できた」と受け取ってしまうのが、決算対策で最初につまずくポイントです。

恒久的に税額が減る「本当の節税」もある

一方で、繰延ではなく税負担そのものが恒久的に減る対策もあります。将来戻ってくる益金が発生しないため、支払った税金が本当に軽くなります。

役員社宅・出張日当・税額控除など、恒久的に税負担が減るタイプの対策

1つ目は役員社宅です。法人が借りた住宅を役員へ貸し、役員から賃貸料相当額を受け取る形にすると、会社が負担した家賃と受取家賃の差額が損金になります。賃貸料相当額は国税庁の基準で計算され、小規模な住宅(木造など耐用年数30年以下の建物で床面積132平方メートル以下、それを超える建物で99平方メートル以下)であれば、固定資産税評価額をもとにした比較的低い金額で済みます。役員が賃貸料相当額以上を支払っていれば、役員側に給与課税は生じません。個人で家賃を払う場合と比べて、法人の損金と個人の手取りの両面が変わります。

2つ目は出張日当です。旅費規程を整備し、出張の実態にもとづいて支給する日当は、通常必要と認められる範囲であれば所得税法第9条第1項第4号により役員・従業員側で非課税となり、会社側では損金になります。消費税でも、通常必要と認められる部分は課税仕入れとして扱えます。受け取った本人に所得税がかからず、会社の利益が圧縮される点で、繰延とは性質が異なります。

3つ目は税額控除です。代表例が賃上げ促進税制で、中小企業者等が前年度より給与等支給額を増やした場合、その増加額の一定割合を法人税額から直接控除できます。令和6年度税制改正後の中小企業向けでは、上乗せ要件を満たすと控除率は最大45%、控除額は法人税額の20%が上限で、控除しきれない分は5年間の繰越しが認められます(適用は令和6年4月1日から令和9年3月31日までに開始する各事業年度)。損金を積むのではなく税額から直接引く点で、繰延とは根本的に効き方が違います。

これらは益金として戻ってこないため、繰延と区別して考える必要があります。

繰延そのものが無意味なわけではない

ここまで読むと、課税繰延は意味がないと感じるかもしれません。しかし繰延は、使い方を設計すれば十分に価値があります。

鍵は、戻ってくる益金を何にぶつけるかです。将来の益金と相殺できる損失や控除を用意しておけば、繰り延べた分の税負担を実際に軽くできます。

代表的なのが役員退職金です。役員が退任する期に解約手当金や解約返戻金を益金として計上し、同じ期に役員退職金を損金として計上すれば、益金と損金が相殺されます。役員退職金は退職所得として受け取る個人側でも課税が軽く設計されているため、法人・個人を通じて負担を圧縮できます。繰延で作った益金の出口を、あらかじめ退職のタイミングに合わせておく発想です。

もう1つは赤字期との相殺です。大きな設備投資や事業の落ち込みで赤字が見込まれる期に解約すれば、戻ってきた益金が赤字で吸収され、課税されずに済みます。

逆に一番危ないのが、出口を決めないまま繰延だけを積み上げるパターンです。解約時期を考えずに掛金や保険料を払い続け、いざ資金が必要になって解約したら、その期の利益がふくらんで想定外の税金が発生する。これが課税繰延の最大のデメリットです。繰延は「税金を消す道具」ではなく「税金の支払時期を動かす道具」なので、動かした先に受け皿がなければ意味を失います。

商品を勧められたら確認する2つの問い

決算対策商品を勧められたとき、その場で判断するために確認したい問いは2つです。

1つ目は「これは節税か、課税繰延か」。今期に損金を作る商品なら、その損金が将来益金として戻ってこないかを確認します。戻ってくるなら繰延であり、トータルの税額は原則変わりません。

2つ目は、繰延だった場合の「出口はいつ、何か」。解約や満期で益金が戻る時期はいつか、その益金にぶつける損金(役員退職金、赤字期の見込みなど)を用意できるか。ここが設計できていれば繰延は有効な手段になり、設計できないなら効果は限定的です。

この2つを最初に確認するだけで、「節税になります」という説明を鵜呑みにして契約する事態はかなり防げます。売り手の説明が繰延を節税と呼んでいないか、出口の話まで含んでいるかを、判断材料として持っておくことをおすすめします。

当社の場合

当社(株式会社87Technology)も、この記事の分類でいうと繰延型と恒久型の両方を使っています。

繰延型では経営セーフティ共済を導入しています。出口として想定しているのは、役員退職金でも赤字期でもなく、代表が長期の休暇を取る期です。当社のようなマイクロ法人は代表の稼働がそのまま売上になるため、まとまった休みを取れば、その期の利益は自然に減ります。解約手当金の益金をその期にぶつければ、課税を抑えて繰延を回収できる計算です。退職金を待たなくても、マイクロ法人にはこうした出口の作り方があります。

恒久型では、旅費規程を整備した上で出張日当を運用しています。一方、役員社宅は導入していません。代表の自宅が持ち家で、借り上げ社宅を前提とするスキームの条件に合わないためです。効果が大きいとされる対策でも、自社の条件に合わなければ使わない。その取捨選択も決算対策の一部だと考えています。

まとめ

決算対策商品を評価する軸は、税金が消えるのか(節税)、支払いが将来へ移動するのか(課税繰延)の1点に集約されます。

決算対策全体をいつ何から着手するかは、決算月からの逆算で整理するのが実務的です(関連記事: 決算対策はいつまでに何をやるか — 決算月からの逆算カレンダー)。また、この記事で触れた即時償却型の決算対策商品の具体例としては、当社が実際に運用したマイニングマシンの記録があります(関連記事: 【実録】マイニングマシン節税 — 99万円分を3年運用しきった全記録)。