役員報酬の決め方 定期同額給与と事前確定届出給与の使い分け
役員報酬は、決め方を間違えると1年間その金額に縛られます。期首から3か月を過ぎたあとで増額しても、増やした分は法人税の計算上、経費になりません。
この記事は、決算月が近づいて役員報酬をどう決めるか検討している法人経営者・経理担当者に向けたものです。定期同額給与の期首3か月ルール、期中でも動かせる例外、賞与型の別制度である事前確定届出給与、社会保険料との関係を、国税庁の資料をもとに整理します。
決算対策の逆算カレンダーと期末1ヶ月でもできる決算対策チェックリストでは「役員報酬は期中に動かせない」という結論だけを短く触れました。ここではその理由と例外を正面から扱います。
役員報酬は期首から3か月以内に決める 定期同額給与の基本ルール
定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与のうち、各支給時期の支給額が同額であるものをいいます(法人税法34条1項1号)。この形をとった役員給与は損金に算入できます。
金額を変える改定が認められるのは、原則として事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までです。3月決算なら6月30日が期限になります。確定申告書の提出期限の延長特例を受けている法人は、その指定に係る月数に2を加えた月数を経過する日までとされています(国税庁 No.5211)。
期限を過ぎて増額すると、改定後の支給額のうち増額前の水準を超える上乗せ部分が定期同額給与に当たらず、損金不算入になります。期中に減額した場合も、各支給時期の支給額が同額でなくなる点は同じです。決算対策として「今期は利益が出たから役員報酬を上げて圧縮する」という手が使えないのはこの仕組みがあるためで、役員報酬による調整は翌期の期首に向けた検討事項になります。
なお、損金算入が認められる役員給与には業績連動給与という形もありますが、同族会社以外の法人などが対象で要件も重く、非上場の中小企業やマイクロ法人が使う場面はほとんどありません。
期首3か月を過ぎても動かせる3つの改定事由 分掌変更の実例つき
一度決めた役員報酬は年度内に一切動かせない、というわけではありません。定期同額給与として認められる改定は3種類あります。
| 改定事由 | 改定できる時期 | 動かせる方向 |
|---|---|---|
| 通常改定 | 会計期間開始の日から3か月を経過する日まで | 増額・減額とも可 |
| 臨時改定事由 | 期中でも可 | 増額・減額とも可 |
| 業績悪化改定事由 | 期中でも可 | 減額のみ |
期中に動かせる例外は2つあり、性格が違います。臨時改定事由は役員の立場が変わったことに対応するもので増減どちらも可能、業績悪化改定事由は経営状況の悪化に対応するもので減額に限られます。この非対称性を押さえておかないと、「期中でも例外があるなら増額もできる」という誤解につながります。
臨時改定事由 職制上の地位の変更で認められた実例
臨時改定事由とは、その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情をいいます(国税庁 No.5211)。役職が変わって職責が変わったのだから報酬も変わる、という改定です。
どこまで認められるかは、国税庁の質疑応答事例「役員の分掌変更に伴う増額改定(定期同額給与)」に具体的な日付と金額を伴う例があります。
当社(年1回3月決算)では、代表取締役Aが急逝したことから、急きょ、10月1日に臨時株主総会を開催し、取締役Bを代表取締役に選任するとともに、Bの役員給与を月額50万円から前任者Aと同額の月額100万円に増額改定する旨の決議を行いました。
3月決算なので、通常改定の期限である6月30日はとうに過ぎています。10月1日という期の半ばで、月額50万円から100万円へ倍増させた改定です。これに対する回答は次のとおりです。
ご質問の場合は、増額改定前の定期給与と増額改定後の定期給与とのそれぞれが、定期同額給与として取り扱われます。
根拠は法人税法34条1項1号と法人税法施行令69条1項1号です。改定前の各支給額が同額で、改定後の各支給額も同額であれば、その両方がそれぞれ定期同額給与として損金に算入されます。増額分だけが取り出されて損金不算入になるわけではありません。
この事由の本質は、役員の立場と職責が変わったことにあります。体調不良で代表取締役を退いて取締役になるといった役職の変更も、同じ枠組みで検討する対象です。ただし該当するかどうかは事実関係次第で、職責の変わらない肩書きの付け替えや単なる昇給は対象になりません。
業績悪化改定事由 減額のみ認められる場合
業績悪化改定事由は、その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定です。国税庁は、この事由による改定について「その定期給与の額を減額した改定に限られ」と明示しています(No.5211)。増額には使えません。
該当する範囲も狭く、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことは含まれないとされています。赤字になりそうだから役員報酬を下げる、という程度の理由では足りません。実務上は、株主や取引銀行、取引先といった第三者との関係上、報酬を減額せざるを得ない事情があるかどうかが判断の軸になるとされています。
事前確定届出給与の仕組みと届出期限
定期同額給与は毎月同じ額を払い続ける制度なので、賞与のようにまとまった額を一度に出す形とは相性がよくありません。そこで用意されているのが事前確定届出給与です。
役員の職務につき、所定の時期に確定した額の金銭を交付する定めにもとづいて支給する給与で、あらかじめ税務署へ届け出ておくことで損金に算入できます(法人税法34条1項2号)。役員賞与を出す時期と金額を事前に確定させて申告しておく仕組みです。届出期限は、次のいずれか早い日です。
- 株主総会等の決議によりその定めをした場合の、その決議をした日から1か月を経過する日
- その会計期間開始の日から4か月を経過する日
3月決算の会社が6月25日の定時株主総会で決議したなら、決議日から1か月を経過する日は7月25日、会計期間開始の日から4か月を経過する日は7月31日なので、期限は早いほうの7月25日です。決議を遅らせれば期限が延びるわけではなく、4か月のほうが上限として効いてきます。新たに設立した法人については、設立の日以後2か月を経過する日が期限とされています。
この制度の要は、届け出た内容のとおりに支給することです。国税庁の質疑応答事例では、届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には事前確定届出給与に該当しないこととなり、原則としてその支給額の全額が損金不算入になるとされています。減らした差額だけが否認されるのではありません。支給日についても同じ考え方が及びます。金額や時期が届出と食い違えば、その支給が丸ごと損金にならなくなりうる制度だと理解しておく必要があります。
役員報酬と社会保険料 事前確定届出給与で下げる場合の条件と限界
社会保険料は、毎月の報酬については標準報酬月額に、賞与については標準賞与額に、それぞれ保険料率を掛けて計算します。この標準賞与額には上限があり、日本年金機構によれば、健康保険は年度(4月1日から翌年3月31日まで)の累計額573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円です。上限を超えた部分に保険料はかかりません。
ここから、月々の役員報酬を抑えて事前確定届出給与に寄せれば社会保険料を圧縮できる場合がある、という話が出てきます。年間の受取総額が同じでも、賞与側の上限を超えた部分には保険料がかからないためです。
ただし条件があります。社会保険上の賞与に当たるのは年3回以下の支給に限られ、年4回以上支給すると賞与ではなく報酬として扱われ、標準報酬月額の計算に含まれることになります。支給回数を増やして調整するという設計は取れません。
税務上の要件と社会保険上の要件が別々に効く点も見落とせません。届出どおりに支給できずに全額が損金不算入になれば、社会保険料が下がっても法人税の側で失うものが出ます。月額を下げれば、将来受け取る厚生年金の額や傷病手当金・出産手当金といった健康保険の給付にも影響し、退職金の算定を月額基準で組み立てている場合はその基準額も下がります。
当社は、この設計を「条件を満たせば社会保険料が下がる場合がある一方、税務・年金・給付の複数の面に副作用が出る仕組み」として捉えています。削減幅だけを見て判断せず、顧問税理士や社会保険労務士に確認したうえで決めるのが現実的だと考えています。
当社の場合 定期同額給与のみで運用し事前確定届出給与は使っていない
当社(株式会社87Technology)はマイクロ法人で、役員報酬は定期同額給与のみで運用しています。事前確定届出給与は使っていません。理由は次の2点です。
- 報酬水準そのものを抑える方針を取っており、賞与へ分割する追加の設計を必要としていない
- 届出どおりに支給し続ける管理を、一人代表の体制で負う理由が薄い
前者は、小規模企業共済はマイクロ法人役員に効くかで触れた方針の延長にあります。マイクロ法人では社会保険料を抑えるために役員報酬を低めに設定するケースが多く、当社もその考え方を取っています。標準報酬月額を下げて社会保険料を軽くするという目的には報酬水準を抑えること自体で対応できており、賞与へ寄せる二段目の設計まで踏み込む必要を今のところ感じていません。
後者は運用の話です。事前確定届出給与は、届け出た金額と時期のとおりに支給しなければ、その支給が全額損金不算入になりうる制度でした。毎期、届出書の作成と提出期限の管理、支給日と支給額の照合を欠かさず回し続ける必要があります。従業員がおらず経理も代表が兼ねている体制では、この管理を落としたときの損失のほうが重いと当社は判断しました。金額を通年で固定してしまえば、支給のたびに確認すべきことは残りません。
これは当社の規模と体制にもとづく判断で、制度そのものを否定するものではありません。役員が複数いて経理担当者がいる会社や、報酬水準が高く賞与側の上限が効いてくる会社では、結論は変わりうると考えています。
まとめ
役員報酬は、決算対策のなかでも「いつ決めるか」が結果をほぼ決める項目です。
- 定期同額給与の改定期限は、会計期間開始の日から3か月を経過する日まで。申告期限の延長特例を受けている法人は、指定に係る月数に2を加えた月数を経過する日まで
- 期限を過ぎて増額しても、上乗せした差額部分は損金不算入になる
- 期中でも動かせる例外は臨時改定事由(増額・減額とも可)と業績悪化改定事由(減額のみ)。一時的な資金繰りや単なる業績目標の未達は後者に含まれない
- 国税庁の質疑応答事例では、代表取締役の急逝を受けて10月1日の臨時株主総会で行った月額50万円から100万円への増額改定について、改定の前後それぞれが定期同額給与として取り扱われている
- 事前確定届出給与の届出期限は、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日。届出額と実際の支給額が異なると、原則としてその支給額の全額が損金不算入になる
- 社会保険上の賞与は年3回以下の支給に限られ、標準賞与額の上限は健康保険が年度累計573万円、厚生年金保険が1か月150万円
- 当社は定期同額給与のみで運用し、事前確定届出給与は使っていない
今期の利益を役員報酬で調整することは、原則としてできません。期末が迫っている会社が今から打てる手は期末1ヶ月でもできる決算対策チェックリストに、時期ごとに何が残っているかは決算対策はいつまでに何をやるかにまとめています。