マイクロ法人が居住用賃貸建物で仕入税額控除を受けられなかった当社の失敗談
免税事業者のときに物件を買ったせいで、消費税の還付を受け損ねた。当社は長いあいだそう思っていました。ところが調べ直すと、当社が取得したような住宅を貸すための物件は、課税事業者であっても取得時の消費税を仕入税額控除できない制度になっていました。前提としていた理解のほうが間違っていたわけです。
この記事は、本業を別に持つマイクロ法人が居住用の不動産を持つときに消費税で何が起きるかを、当社の物件を題材に整理したものです。令和2年度改正で入った控除の制限と、その背景、そして当社が見落としていた3年の調整期間まで扱います。
当社が免税事業者だったから消費税還付を逃したと思っていた理由
課税事業者が事業用の建物を買うと、その代金に含まれる消費税は課税仕入れとして仕入税額控除の対象になります。売上に係る消費税より控除できる消費税が大きければ、差額が還付されます。一方、免税事業者は消費税の申告そのものをしないため、控除も還付もありません。
当社(株式会社87Technology)は2021年7月に設立し、2022年9月に賃貸用の住宅を取得しました。自社で使うのではなく、住宅として人に貸す物件です。取得した時点で当社は設立2期目にあたり、基準期間となる事業年度がありませんでした。新設法人は資本金の額などの要件を満たせば設立当初の課税期間は免税事業者になり、当社もそこに当てはまっていました。
免税事業者でも、課税事業者選択届出書を出せば課税事業者になれます。原則として、適用を受けたい課税期間が始まる日の前日までに提出しておく必要があります。当社はこれを出していませんでした。だから当時は「あの届出さえ出しておけば、建物の消費税が戻ってきたのではないか」と考えていました。
ただし、この理解には出発点に誤りがありました。
居住用賃貸建物は仕入税額控除の対象外という制度
令和2年度税制改正で、消費税法30条に10項が追加されました。令和2年10月1日以後に取得する「居住用賃貸建物」については、その課税仕入れ等の税額を原則として仕入税額控除の対象にしない、という内容です。当社の物件は2022年9月の取得なので、この改正後の取引に当たります。
居住用賃貸建物の定義と高額特定資産の基準
条文の定義は二重否定で書かれていて読みにくいのですが、分解すると次のようになります。居住用賃貸建物とは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって、高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当するものを指します。
前半の「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外」は、住宅として貸す可能性のある建物を広く含める書き方です。オフィスビルや店舗のように、構造や設備から住宅として貸すことがないと分かる建物は外れます。逆に、居室と台所と浴室を備えたマンションの一室は、契約上の用途が決まっていない段階でもここに入ります。
後半の高額特定資産は、一の取引単位につき税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。判定は建物部分で行い、非課税である土地部分は含みません。
当社の物件は住宅として賃貸に出すために取得したもので、建物部分の取得価額もこの基準を超えていました。定義のどちらの側から見ても、居住用賃貸建物に当てはまります。
課税事業者でも控除できないという当社の理解の訂正
この制限で重要なのは、事業者が課税事業者かどうかや、課税売上割合の高さに結論が左右されない点です。個別対応方式でも一括比例配分方式でも変わらず、居住用賃貸建物に該当すれば、その課税仕入れ等の税額は控除の対象から外れます。
つまり、当社が課税事業者選択届出書を出し、課税事業者として2022年9月の取得を迎えていたとしても、この物件の消費税は控除できなかった可能性が高いと考えています。還付を受けられなかった原因は届出を出さなかったことではなく、取得した資産の種類のほうにありました。「免税事業者だったから損をした」という当社の当初の理解は、前提から正確ではなかったことになります。
控除できなかった消費税は法人税の損金にできる救済措置
控除できなかった消費税が、そのまま消えてしまうわけではありません。仕入税額控除の対象にならなかった部分は「資産に係る控除対象外消費税額等」として、法人税の計算で損金に算入する道が用意されています(法人税法施行令139条の4)。
処理は分かれます。その課税期間の課税売上割合が80パーセント以上である場合、棚卸資産に係るものである場合、または一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満である場合は、所定の経理処理をしたうえでその事業年度の損金に算入できます。いずれにも当たらない場合は、繰延消費税額等として60ヶ月で償却するか、建物の取得価額に算入して減価償却で費用にしていきます。
ただし、ここで取り戻せるのは法人税の負担分にとどまります。消費税そのものが返ってくるわけではなく、費用として計上するタイミングの話に変わったにすぎません。
なお、この救済措置も免税事業者には関係がありません。免税事業者は税抜経理方式ではなく税込経理方式を適用することとされており、仮払消費税等や控除対象外消費税額等という金額そのものが発生しないためです(国税庁の法令解釈通達「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」)。当社は取得時に免税事業者のままだったので、建物の取得価額には消費税込みの金額をそのまま計上し、通常の減価償却で費用化しています。控除できなかった消費税を法人税側で取り戻す、という話自体がありませんでした。
なぜ居住用賃貸建物だけ一律で控除できないのか、背景にある金地金還付スキーム
住宅の家賃は、一定の要件を満たす貸付けであれば消費税が非課税です。非課税売上を生む資産のための課税仕入れは、本来なら控除の対象になりません。ところが従来の計算の仕組みでは、課税売上割合が高ければ、非課税売上に対応する課税仕入れも含めて控除できる余地がありました。
ここに目をつけて、居住用の賃貸物件を取得した課税期間に金地金の売買を大量に繰り返し、課税売上を積み上げて課税売上割合を意図的に引き上げる手法が使われた、と説明されています。建物の取得に含まれる消費税を実質的に丸ごと還付させる形になることから、金地金還付スキームと呼ばれています。
消費税の還付をめぐる手法と、その封じ込めは以前から繰り返されてきました。自動販売機を設置して課税売上を作る手法と平成22年度改正での制限、平成28年度改正で入った高額特定資産の取得後は一定期間免税事業者へ戻れないという制限を経て、令和2年度改正では居住用賃貸建物そのものを控除の対象から外す形が採られた、と整理されています。
租税回避の意図もなく本業の傍らで住宅を1件持っただけの当社も、この制限の中にいます。制度が個別の意図を判定する作りになっていない以上、該当するかどうかは建物の性質と金額だけで決まります。
3年の調整期間という制度を当社は知らなかった
取得のときに控除できないなら、売るときはどうなるのか。建物を売れば、売主が課税事業者である限り建物部分の譲渡は課税取引になり、預かった消費税を納めることになります。買うときは控除できず、売るときは納める。この釣り合いの悪さは当社も引っかかっていた点で、制度側にも手当てが置かれていました。
調整期間とは何か、第三年度の課税期間の数え方
消費税法35条の2は、取得時に控除できなかった居住用賃貸建物について、一定の期間内に用途を変えたり売却したりした場合に、控除できなかった消費税の一部を仕入控除税額に加算する調整を定めています。対象になるのは次の2つです。
- 調整期間のうちに、その建物を住宅の貸付け以外の貸付けの用に供した場合。事務所として貸すような、課税賃貸用への転用がこれに当たります
- 調整期間のうちに、その建物を他の者に譲渡した場合
期間の定義は2段構えです。「第三年度の課税期間」とは、仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間を指します。「調整期間」は、仕入れ等の日から、その第三年度の課税期間の末日までの期間です。
加算するタイミングにも決まりがあります。転用や譲渡をした事業年度ではなく、第三年度の課税期間の申告で調整します。加算できる額も控除できなかった全額ではなく、調整期間のうち課税賃貸用に使った割合や、譲渡の対価を含めた計算で決まります。
そして、この期間を過ぎてから転用や譲渡をしても、調整の対象にはなりません。取得時に控除できなかった消費税を後から取り戻す道は、そこで閉じます。
消費税法35条の2が調整の対象とするのは、30条10項の適用を受けた事業者に限られます。つまり、実際に居住用賃貸建物の取得時の消費税を仕入税額控除から除外された事業者だけが対象です。免税事業者は消費税の申告そのものをしないため、取得時に仕入税額控除ができるかどうかという判定自体が発生しません。当社は取得時に免税事業者のままだったので、この30条10項の適用を受けた事実がなく、35条の2の調整計算の対象になる土俵にそもそも乗っていませんでした。
仮に当社が課税事業者選択届出書を出し、課税事業者として2022年9月の取得を迎えていたとしても、居住用賃貸建物である以上、取得時の仕入税額控除はやはりできなかったはずです。ただしその場合は、30条10項の適用を受けた事業者として35条の2の対象に入るため、3年の調整期間のうちに転用や譲渡をすれば一部を取り戻す選択肢が残っていたことになります。
仮に課税事業者を選んでいた場合で計算すると
当社の事業年度は7月1日から6月30日までです。仮に課税事業者を選んでいたとして、その場合の期間を条文に当てはめると、日付は次のように並びます。
- 取得日は2022年9月。属する課税期間は2022年7月1日から2023年6月30日まで
- その課税期間の初日は2022年7月1日。ここから3年を経過する日は、応当日である2025年7月1日の前日にあたる2025年6月30日
- 2025年6月30日が属する課税期間は2024年7月1日から2025年6月30日まで。これが第三年度の課税期間
- 調整期間の末日は、その課税期間の末日である2025年6月30日
この記事を書いている時点で、仮に課税事業者を選んでいた場合の調整期間も、既に過ぎています。当社は実際には免税事業者のままだったため、そもそも調整計算の対象になる要件を満たしていませんでした。仮に課税事業者を選んで対象に入っていたとしても、動ける期間は同じく過ぎていたことになります。
なお、ここに書いた日付の当てはめは、当社が条文を読んで自社の事業年度に適用したものであり、税理士の確認を経たものではありません。期間の起算日の考え方には解釈の幅があり、実際の申告で使う場合には個別の確認が欠かせません。
マイクロ法人が不動産を持つときに消費税で確認しておきたいこと
当社の失敗の所在は、免税事業者だったことではありませんでした。取得する資産が居住用賃貸建物に当たれば、入口の届出をどう選んでも取得時の控除はできません。見落としていたのは、その先に3年という時間軸の制度が置かれていて、動ける期間が有限だったという点です。
本業を別に持つ法人が住宅を取得するとき、当社が今なら先に確認する項目を挙げておきます。
- 取得する建物が居住用賃貸建物に当たるか。住宅として貸す可能性があり、建物部分が高額特定資産の基準に届くかどうかで決まります
- 該当するなら、取得時の消費税を控除できない前提で資金計画を組む。還付を織り込んだ資金繰りは前提から崩れます
- 控除できなかった消費税を法人税でどう処理するか。当期の損金、繰延消費税額等の償却、取得価額への算入のどれを採るかを、取得した期の経理方針として決めておく
- 保有の出口を取得の時点で考える。転用や譲渡の可能性があるなら、その時期が調整期間の中に入るかどうかを最初に把握しておく
不動産は取得した期だけでなく、減価償却を通じて長く決算に効いてきます。当社が区分マンションの減価償却を決算対策のどこに位置づけているかは、当社の対策を一覧にした記事に書いています(関連記事: 当社が実際にやっている決算対策 全公開)。
まとめ
当社が「免税事業者だったから還付を逃した」と思っていた失敗は、調べ直すと理解そのものの誤りでした。要点を整理します。
- 令和2年度改正により、令和2年10月1日以後に取得する居住用賃貸建物の課税仕入れ等の税額は、原則として仕入税額控除の対象外になった(消費税法30条10項)
- 居住用賃貸建物は、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物のうち、高額特定資産等に当たるもの。金額の基準は建物部分で税抜1,000万円以上
- 課税事業者かどうかも課税売上割合の高さも、取得時に控除できるかどうかという結論には影響しない
- 控除できなかった消費税は、資産に係る控除対象外消費税額等として法人税の損金に算入する道がある。ただし戻るのは法人税の負担分にとどまり、免税事業者にはこの措置自体が関係しない
- 調整期間のうちに課税賃貸用へ転用または譲渡すれば、第三年度の課税期間で一部を取り戻す調整がある(消費税法35条の2)。期間を過ぎると対象外になる
- 当社は取得時に免税事業者のままだったため、法人税の損金算入の措置も35条の2の調整計算も、そもそもどちらも対象になっていない。仮に課税事業者を選んでいた場合の期間で計算しても、その調整期間は既に経過している
不動産は取得の金額が大きく、消費税の扱いを取り違えたときの影響もそれだけ大きくなります。本記事は当社の事例と制度の整理であり、個別の判断を示すものではありません。自社の物件がどう扱われるかは、取得の前に顧問税理士へ確認しておくことをおすすめします。